第36話 母親失格 
 
 
 祭日で人通りが多い割に暇な昼前だった。
 
ふと、後ろのエレベータ前に小学1年生位の女の子が、大きめのキャリーバックを掴んだまま一点を見つめて立っていた。いわゆる直立不動なので違和感があった。30分ほど過ぎて再び見ると、やはり一点を見つめたままだ。
 
「誰かを待っているの?」と声を掛けた。しっかりした声で、お母さんが携帯を忘れたので取りに行っていて、ここで待つように言われたと言う。さらに10分ほどして見ると、さすかに疲れたのか女の子の体が曲がりながらも一点を見続けている。
 
「お母さんは、どこまで取りに行ったのかなぁ?」などと話し相手をしていると、母親らしき人(小じゃれた普通の30代)が現れた。お待たせ!とかなんとか、会話が全くないので私が「子どもさん、おりこうに長いこと待っていましたよ」と。
 
母親は、黙ったままバックを持って歩き始めるや、「この子はいらん子や!生んだのが間違ってたんや!」 大きな声で言いながら、駅の方へ歩き始めた。子供は、少し離れて泣かずに後を追って行った。
 
ニユースなどで、こんな親が居ることを知ってはいたが、目の前にすると、何とも悲しい思いがして残念だった。