第35話 大声の男
 
 

人通りの多い日曜日、少し離れた場所で案内を終え定位置に戻った時だった。

拡声器を使ったような大声で叫んでいる40前後の男性が居た。帽子から着衣、靴まで黒づくめで、一見してお友達になりたくない風貌で怒鳴り続けている。通行人も大きく避けて歩いている。
 
内容は「ここで待っとけ!と言われたから待ってるんやんか!そっちには行かれへんのや!迎えに来いや!」を繰り返している。5分ほどで電話を切った。ホッとするや、私の方に向かってくるではないか。目は「イッテいる」と言うか異常な塊が近づいてきた。
 
一瞬、逃げようかとも思ったが、そこは年の功、やさしく「何かあったんですか?」。男性は普通の声に戻り、通行中に男と体が当たったので文句を言ったら、「私は〇〇署の刑事だ、上司を呼んでくるからここで待っていて欲しい」と言って西の方へ駆け出して行った、と話し、平静さを取り戻し5mほど離れてくれた。
 
やれやれと思った瞬間、電話が掛かってきて、また大声でわめき始めた。トラブルの相手はうまく逃げたに違いないので、長引くと思い、交番へ駆け込んだ。上司を呼んでくると言った刑事がいるかと確認した上で、「通行人が怖がっている」と訴えると、警官3人が飛び出してくれた。
 
現場に戻ると、まだ電話中だったので、警官3人でそれとなく囲み、人の居ない場所へ移動した。その後は事情聴取されたようで、迎えに来た車に乗せて一件落着。
翌日、交番へ行って昨日の男は何者かを尋ねてみた。ひとりの警官が私を交番の外へ連れ出し、病気持ちで病院帰りの途中だったようでお父さんに迎えに来てもらった。と教えてくれ、これで完全落着。