第9話 どちらが迷子?
                
 
祝日の午後だった。
何かを探している様子で、目の落ち着かない 周囲とは違う動きの女性に目が止まった。40代だろうか「何かお探しですか?」と声をかけた。素早くスマホを取り出して 「この子を見かけませんでしたか?」と慌てている様子。
 
この辺を子供がひとりで歩いていると目立つけれど、気が付かなかったことを告げた。その母親らしき女性は、さっき叱りつけたら突然いなくなってしまった。と言いつつ泣きべそ状態。
 
どこへ行く途中だったのかを質しても、意識ここにあらず。落ち着かせるために、もしかしたら子供は先に行っているかもしれませんよと、もう一度行き先を尋ねてみた。ボーリング場に行く予定だと答えが返ってきた。そこで諭すように、ここを通ったら捕まえておくのでボーリング場をのぞいて来るように勧めながら、子供の名前が「ゲンキ」君だと聞きだして見送った。
 
ご案内のお客さんも少なかったので、もしかしてと思い、私は近くの交番に走って行った。ゲンキ君らしい男の子が女性警官と話していた。交番のドアを開けるなり 「ゲンキ君か!」と言うと、「そうです」と返ってきた。警官に事情を説明し、急いで持ち場に戻ると、ちょうど母親が悲しい顔で戻ってきた。
 
「見つかりましたよ」と言いつつ、一緒に小走りで交番へ向かった。母親はわが子を見て安心したようだったが、驚いたことに、子供は椅子からソロッと立ち上がり交番を出ようとした。当然、私は子供の腕を掴んで中に戻した。警官がやさしく二人を椅子に座らせたので、安心して持ち場へ戻った。
 
最近の子供は、自分で交番に行って助けを求めることができることに感心すると同時に、今回の迷子は母親だったような気がしてならない。