第10話 思い入れのある白い帽子
寒さの続く冬だった。 「おじさん、バスの中に帽子を忘れたんだけど‥‥」と言いながら、若い女性二人が近づいてきた。私はバス会社の者ではありません、と言いたいところだが少しでもお役に立てば思い直し、「ハス会社は覚えていますか?」無理を承知で聞いてみた。 三宮バスターミナル周辺には、バス会社が40社ほど営業したいるので、バス会社が分からなければ無理。当然と言えば当然だがその女性は全く覚えていなかった。顔の真剣さから突き放すこともできず、淡路島から来たこと、9時半頃三宮に着いたこと、車体が白っぽかったこと、などが聞き出せた。 もしかして、会社がJRバスで三宮が到着地だと推測できたので、ミントビル1階のJRカウンターに行って相談するように案内した。しばらくして、二人が戻ってきて、今、バスは回送中で確認は取れず、ポーアイのJR車庫へ行くように言われた。無駄足になるかも知れないが、行ってみると言うので、ポートライナーの乗り場を案内した。 その後忙しく活動していたら、正午過ぎに雑踏のなかから女性二人が近づいてきて、ニコッと笑った。午前中は泣き出しそうな左の女性の頭に白い帽子があるのを見て「エッ、見つかったの!」と驚くと、二人で深く深く頭を下げて感謝を表した。私は思わずその白い帽子を撫でていた。 それにしても、半日をつぶしてでも探した帽子には、大切な想い出、深い思い入れがあったのだろう。空を見上げると快晴で、寒さも忘れる清々しい1日となった。 |