第12話 ハイタッチュ
三宮駅前にあるミントこうべ という商業施設は、開店時刻が午前11時のため、ビル内の映画館へは普段ほとんど使われないエレベータ入口から入るが、ビルの谷間で初めての人には見つけにくい。 上映時刻にもよるが、午前8時半を過ぎると2階のショッピング入口に行った人が、迂回看板を見て1階へエスカレータで降りてくる。ところが、1階に着いてからの道順が分からずにウロウロする人が実に多い。この現象は、ビルの構造上の欠陥か、運用上のまずさにしか見えない。この状態は、ビルが建った時から続いている。 1階から2階へ昇り、迂回看板を見て降りてくる人の無駄を省くため、映画に行く人の見わけがかなりの精度で見分けられるようになったので、昇る手前で声を掛けるようにしている。 ある日、母親と子供二人が通りかかった。「映画館はこちらですよ」と、子供に向かって優しさを込めて手で方向を示した。すると母親が「こっちからだって」と子供の手を引っ張った。幼稚園?の女児と保育園?の男児は「教えてくれてありがとう」と、口々に言いながら歩いて行った。 2時間が過ぎたころ、先ほどの母親が「子どもがお礼を言いたがっているので‥」と言いながら近づいてきた。お姉ちゃんのほうが「道教えてくれてありがとう」と言うなり「ハイタッチ!」と手を上げた。すかさず私は少し屈んでハイタッチをした。間を置かずに小さな男の子も 「ハイタッチュ!」 と手を上げた。私は腰痛を忘れてさらに屈んで両手を合わせた。その後、姉弟は振り返りなから「バイバイ」を繰り返しにがら帰って行った。 このような素晴らしい母親の教育が残っている日本、まだまだ捨てたものじゃあないなぁ、と感じた。 |