第4話 昭和の漂う若者
               
 
毎年1月2日は私のボランティア活動始めの日である。
 
その年も寒風の強い日だった。人出も多くなってご案内に調子が出てきたころ、街灯の細い柱に寄り添うように動かない女性が目に付いた。タカラジェンヌと見間違うほどの背の高い女性だった。ビル風がまともに当たるからエレベータの陰に入るように勧めたが、「大丈夫です、私はここにいます。ありがとうございます」と言って動かなかった。
 
その後3時間ほどして、活動を終え引き上げようとした時、先ほどの女性は同じ姿勢で立ったままだった。気になったので、何ゆえに頑張っているのか尋ねた。
 
去年の夏、ここを歩いているときに道を聞かれた男性と4時間ほどデートをし、今度会えるとしたら正月の2日か3日ですね。と言って別れた。もしかして来てくれるのでは?と思うのでもう少し頑張ります、と言う。風邪をひかないようにしてくださいと言って、私は帰宅した。
 
翌日、いつものように定位置に立ち、人の行き交いが多くなりご案内も忙しくしていると、10時頃昨日の女性が現れた。空振りだったようだ。午後7時迄待っていたがダメだったので、「今日も頑張って見ます」と硬い意志表示があった。今日はエレベータの陰に立つように勧めたら、素直に従い「ホント、風の当たりが違いますね」と。
 
手空きの時に、携帯の番号とかメールを聞いていないのかを尋ねると、「何か、無機質な感じがするので聞いていません」 いまどきの若者(彼女は30代か)としてはめずらしく、我々昭和世代には懐かしく思えた。
 
昨日もそうだが、トイレも食事にも行かないことに気が付いたので、つい親心から半ば強制的に行かせた。30分ほどして戻り、今日も夜まで頑張ると言う。
今の時代にも、こんな若者が居ることに何となく気持ちのいい正月になった。